2024.05.01
あまんきみこ 文 北田卓史 絵 ポプラ社 1977年
昔から大好きなお話です。
銀杏の並木が黄色に色づく秋の物語ですが、この新緑の季節に久しぶりに絵本を出してきて眺めています。読み返すたびに、心があたたまります。
タクシー運転手の松井さんは、今日も空色のタクシーのハンドルを握っています。りんどうばしの上で若い男の人が車を止めました。
「どちらまでで?」「いうとおりに いってください」
言われるままに車を右、左と走らせていたら、どこを走っているのか、さっぱりわからなくなってしまいました。
細い一本道に出ました。「ここは奥かえで谷あたりですか?」と聞くと、お客はのどの奥でごろごろするような低い柔らかい笑い声をたてました。バックミラーに映っているのはネクタイを締めた山ねこだったのです。
松井さんは急ブレーキを踏み、車は土ぼこりをあげて止まりました。「おりてくださいよ!!」という松井さんと山ねこの押し問答が始まりました。
結局、松井さんは山ねこを送ることになりました。
むこうの家の前に青いスカートをはいた小さな山ねこが待っています。車が止まるとかけよって言いました。「おにいちゃん、はやく、はやくってば!」
山ねこせんせいは往診カバンを持って降りて、松井さんに言いました。「また、びょういんに かえります。しばらく まっててください。」
少ししたら山ねこ先生は「おかげで、はやく なおりそうです。」と車に乗り込みました。「はやく りっぱな いしゃに なって、ここに かえってこなければ、と おもいますよ。」
そして、町に入ると、お客は若い男の人に戻っていました。大きな大学びょういんの前で止まり、若い男の人は料金といっしょに一枚の紙きれを松井さんの手にのせました。人間には読めない字で「山ねこ おことわり」と書いてあるので、これを貼っておけば山ねこは乗りませんからと。
松井さんは階段を上がっていく先生を呼び止め、紙を破りながら大声で言いました。
「また、いつでも、どうぞ!」