2024.10.26
いせひでこ 偕成社 2013年
父さんはバイオリンやチェロを作る楽器職人。
工房にはいろいろな種類の板があった。10年20年かけて乾かした板は楽器の材料。おじいさんが育てた森の木もあった。
ある日、父さんはできあがったばかりのチェロを届けに行くのに、ぼくを連れて行った。
広い林の中にあるチェリストのパブロさんの家に着いた。パブロさんはゆっくりと弾き始め、「まったかいがあった。森が語りかけてくるようだ」と言った。
それからしばらくして、父さんと母さんと三人で教会に行き、パブロさんの演奏を聴いた。パブロさんの演奏は言葉では表せないことを思い起こさせるようだった。
クリスマスが近づいて、何回か雪が降った。ぼくは木の実を拾うために森に行き、大きな切り株をみつけて年輪を数えてみた。100本までは数えられたが、それ以上は数え切れなかった。切り株の木は切られた後どこへ行ったのだろう・・・ぼくはさまざまな思いを巡らせているうちに切り株の上で眠り込んでしまった。
父さんは翌年の5月のぼくの誕生日に、チェロをプレゼントしてくれた。
あれからずっと私はチェロを弾き続け、子どもたちにチェロを教える道を選んだ。父さんがつくってくれた小さなサイズのチェロは、生徒たちの腕の中で、あたたかな音色を出している。