2025.03.01
山本泉 作 山田真奈未 絵 BL出版 2020年
学校の帰り道、いきなりしゃっくりが出た。止まらない。すると、岸田さんが歩いてくるのが見えた。ぼくは岸田さんが苦手だった。
岸田さんは2学期になって京都から転校してきた女の子。ときどきぼくの知らない本を読んでいる。体育の時間にみんなで走ったら、いちばん速かった。
その岸田さんが後ろから近づいてきて、ぼくを追い越したと思ったら、くるりと振り返り、「なすびは何色?」と言った。あの岸田さんがしゃべった。はじめて聞くはっきりとした声だった。
なすびは何色なんて、考えたこともなかった。少し戸惑って、むらさき色って答えたら、岸田さんは笑った。そして、「ほら」とぼくの顔を指さした。
あ、しゃっくりが止まってる。
岸田さんは京都のおばあちゃんにしゃっくりの止め方を教わったんだって。
次の日、教室で岸田さんがしゃっくりをし始めた。
ぼくは「なすびは何色?」と聞いた。岸田さんは答えたけれどしゃっくりは止まらない。「きゅうりは何色?」「トマトは何色?」「ピーマンは何色?」次々きいたけれど、しゃっくりは止まらない。
「かぼちゃは何色?」岸田さんはこれまでのようにすぐには答えられなかった。目を伏せて考えてから、「皮が緑で、中が黄色」と答えた。
しゃっくりは止まっていた。岸田さんはうれしそうにぼくを見た。