2025.05.27
長田弘 作 長新太 絵 偕成社 2017年
ぼくが一人でお留守番をしていると、電話が鳴った。電話に出るのは苦手だから、出ないことにしている。でも、しつこく続いている。ええい、しかたないや。「もしもし、どなたですか。いまはだれもいません。ぼくはおるすばんです。」
電話のむこうの声は今まで聞いたこともないような変な声だった。「帽子だよ」と言う。おとうさんの帽子らしい。おとうさんは帽子をコーヒー屋のテーブルの上に忘れて帰っちゃったので、帽子は困っているんだって。
おとうさんが帰って来た。青いしましま帽子、どうしたのと聞いたら、どこかに忘れてきたと言う。ぼくは帽子から電話があっったことを伝えた。次の日、おとうさんの頭にのって帽子は帰って来た。でも、帽子のやつ、ひとこともぼくに挨拶しない。
それから二日もしないうちに、またおとうさんは帽子をどこかに忘れてきてしまった。おとうさんは困り切っている。あの帽子はおとうさんの友だちなんだそうだ。
電話が鳴った。ぼくが出た。帽子の声が聞こえる。おとうさんに駅のベンチに置いていかれたんだと怒っている。それからものすごい音が聞こえて、「ああっ!」電話は切れてしまった。
それから、十日たった真夜中のこと。とつぜん電話がなった。
「もしもし、もしもし」と言うと、「ヘロー、ヘロー」とあの妙ちきりんな声。
「ぼくはいま、ニューヨークの港のなかのちいさな島にたっている、おおきな自由の女神の頭のうえにいる。」「ヘロー、ヘロー・・・・・・あっちゃん、ヘロー、ヘロー・・・・・・」
しばらくしてニューヨークから航空便で絵葉書が届いた。絵葉書の中の自由の女神は、青いしましま帽子をふかぶかとかぶってすましこみ、片手にたいまつをかかげて立っていた。