2026.01.02
松成真理子 白泉社 2010年
キルル キルル
小さな声がわらで編んだ古いふでばこの中から聞こえてくる。赤い目玉のわに?とかげ?りゅう?
ずかんで調べると、「りゅうは球をもっています」って書いてあるけれど、キルルは何も持っていない。おじいちゃんなら知っているかもしれないと、ゆりいすでお昼寝しているおじいちゃんを起こしてたずねた。おじいちゃんは「とかげじゃろ」と答えた。
キルルは何も食べなくて、小さいまま。ときどき、小さな火を吹いて、じっと窓の外を見ている。
ある朝、すごい音ともに、おじいちゃんがぼくの部屋に飛び込んできた。
「たいせつなやくそくをおもいだしたんだ」
おじいちゃんがうんと若かったころ、南の国でひどい嵐にあって困っていたとき、まるい球をかかえた赤い目玉のりゅうがやって来た。おじいちゃんはりゅうがくれた透明の球を手のひらにくるんで一晩中家に帰りたいと願い続けたんだそう。おじいちゃんは無事に帰って来た。眠ったりゅうをポケットに入れて。
50年たったら思い出すことが約束だったのに、年をとりすぎてしまった。「ゆるせよ りゅうよ」おじいちゃんのなみだはキルルの前でぴたりと止まり、まるい球になった。それを抱えると、キルルのうろこは光り始めた。小さな羽が背中から出てきて僕の手のひらに止まってじっとみつめていた。
夜が来て、キルルはまどから飛び立った。
ぼくはキルルのいなくなったふでばこをのぞいている。
50年たってもキルルのことを忘れませんように。100ねんたってもキルルがぼくのことを忘れませんように。
